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「本と街と本屋さん」
恵文社一乗寺店 堀部さん
トークイベント全文文字起こし

 

 Vol.2

 

堀部:僕自身も、うちの会社としても、取次の存在やシステムを否定するものではないですね。取次の存在があるからこそ、一乗寺店みたいな店も存在できていますし。

 

 

これは最後にお話ししようかと思ってたんですが、新刊書点っていうのは、メディアの役割を果たしていると思うんです。最近はこういう物や人が流行っているんだっていうのが、雑誌の表紙や見出しを見たら分かりますよね。街であったりお客様の欲しいものに合わせると。本屋は媒介者であり、主張者ではないから、お客様から一冊欲しいって言われた本も注文しますし。新刊雑誌などでも、小部数を直接取引で仕入れるのはなかなか難しくて。

 

 

恵文社一乗寺店もそうですけれど、僕が好きな本屋さんっていうのは、取次と契約して新刊書を一冊単位で並べているところ。逆に言うと、新しく小さな本屋さんも出来てきていますけれど、そういうお店は取次と契約できないところが多いんですよね、取次の求める保証金っていうのが凄すぎて。個人で独立して出せる額ではないんですよ。

 

だから、店主こだわりの古本のセレクトが魅力だったり、リトルプレス専門店であったり。そういうお店もすごく素敵だし、出版業界の中の抜け道であると思うんです。そうしたお店が出てくるのはすごく頼もしいんですけど、残念ながらそういうお店はメディアではなくて、街の本屋さんではなくて、「その人のお店」なんですね。その人の美意識によるもの。

 

 

僕はそれにはあんまり興味がなくって。自分の美意識が凄くあるとか、こういうものの専門店をやりたい、とかそういう意識は僕にはないんです。本屋というメディアで面白い店が出来て、誰が来ても分からないところがある、そういうものを作りたい。そのためには取次も必要なんです。システム上の悪いところもあるんですけど、それを使ってこそ今出来ているところもあるし。まあ、もうちょっと利率を改善して欲しいとか、そういったことはありますけれど。

 

 

 

どこかで見たんですけど、ある本屋さんが経営コンサルタントの方に見てもらったところ、こういう小売店なら利率が5割ないと健全な経営にはならない、って言われてたんですよね。アパレルとか食品だとそのくらいの利率はあるんですけど、本はいろんな小売の中でも低い利率で、そういうのもあって凄く成り立ちにくい。そういう意味で、我々のような店がすごく興味を持って頂けているというのは、業界全体の成り立ちにくさの中で残っている、というのも一つの要因かもし れないですね。

 

 

宍道:ありがとうございます。再販制度の話はまた出てくるかもしれませんが、続いては恵文社の特徴、新しく上梓される本にも書かれたと思うんですが、ジャンル分けにこだわらない本棚づくりなど、今までにない特徴を持った本屋をどうやって作られたのか、どのあたりがきっかけだったのか、ということについてお聞きしたいです。

 

 

堀部:今仰って頂いたことについては、うちの店が出版社ごととか、著者ごととか、アイウエオ順で本を並べている訳ではないということですね。そういう並べ方をしている棚もありますが、便宜上のインデックスで並べないというのが一つのコンセプトというか、コンセプトを考える前からそれをやっていたというか。

 

 

なんでそんな並べ方をするんですか?とよく聞かれるんですが、うちは規模としては中型書店。大型書店ではないですし、蔵書数がそんなに多くあるわけではないんです。時代背景としてインターネット、サーチエンジンが当たり前にある中で、欲しいものを探すとき、インデックスであったり、便宜上の並びにした方が効率的ではあるのですが、そういう利便性の勝負をするなら、蔵書数が多かったり、立地が良かったり、商品がすぐ買えるとか、そういう合理的な勝負になりま す。そういう意味では、普通に考えてWEB検索に勝てるはずがないんです、欲しいものが最初から分かっているのであれば。

 

 

 

だから、最初からそれと差別化するには、反対の考え方をするしかないんですよね。例えばアマゾンであったり、グーグルであったり、ああいうものが万能とされてますけど、実は質が違うというか。情報を検索するのと、学習をしたり、知らないことを知るって言うのは、全くベクトルの違う知的活動で、検索したり調べものをするのは、自分にとって必要なこと、自分が必要だと分かっていることを、取り寄せることなんです。そのためには、自分に欠けていることが何かということを知っていないとダメ。それはけっこう消費に近い考え方で。

 

 

それと逆に、知らないことを知るであるとか、学習をするということは...今喋っているのは、内田樹先生の話をすごく僕は腑に落ちていてそこからヒントを得ているんですが...学習することは、その時に価値を分かっていないことなんですよね。全ての学習の根本はそうで、言葉を覚えたらコミュニケーションが取れるから、という理由で赤ちゃんは言葉を覚えるわけではないですし、小学生が算数を覚えるのも、小学生の時点で算数なんて役に立たないだろう、っていうのは、それは消費の考え方なんですね。「図工が役に立たない」って言われるのは、受験に出てこないから。それは、価値を知っている人にしか判断できないことなんですよ。

 

 


でも学習っていうのは...内田樹先生は構造主義が専門なので、例えばレヴィ・ストロースがフィールドワークに行ったとき、ある部族はよく分からないものを拾い集める、と。その時は意味が分からないんだけど、ブリコラージュって言って、後からそれを組み合わせて、役に立つものを作る。それこそが学習であって、知的活動の根本である。そういった行為と、検索したり調べものをしたりするのは、全く別のベクトルの行動であると。

 

だから、検索したり必要なものをたぐり寄せるのはサーチエンジンやアマゾンに任せて、うちの場合は、例えば、食のコーナーがあれば、選ぶ基準もあるんですが、もちろん料理書もあって、グルメマンガもあって、池波正太郎の随筆もあって...料理をテーマにしたアートブックがあったりとか、和菓子をテーマにした絵本が並んでいたりとか。

 

 

 

何かを探しているときに、なんとなく食に関心のある人が店に来て、ふらっと見て、普段なら料理本しか見ない人が、こんな絵本もあるんだ、こんなマンガもあるんだ、こっちも関係あるかも、って様々な本に気づいてもらう、それこそがうちの店の棚作りの根本的な考え方です。

 

 

 

だから、何か特定のものを探しに来られるには不便な店だし、かつ規模も大きくないので、世界中の本を置くのは物理的に不可能ですし...それを逆手に取ってというか、差別化でもありますし、検索であったりそういうことの反対、リアルな場所でしかできないこと、ブリコラージュと一緒で、知らないものを手に取ってもらうこと。品揃えとか利便性を努力するのではなく、こんなものもあるんですよ、っていう並べ方の文脈で語る。

 

普通の本屋さんだとポップを付けたりしますが、本って本来、すごく沢山の情報の固まりですよね。タイトルや帯もあれば著者名もあるし、推薦文もある。すごく情報量があるんで、それに対して違う見方をポップで付けるんじゃなくって、本の並べ方によって、読み取り方が変わると。その配置によってお客さんに気づいてもらう。それが棚作りの一番大きな特徴なんじゃないかなと思います。

 

 

 

あとは、敷居を低くするために、お店の雰囲気ですね。観光みたいな感じでパシャパシャ写真撮りながら入ってこられる方もいらっしゃるんですけど、それでも一冊でも本を買っていっていただければありがたいです。もし本の利率が五割あって、僕一人だけの店だったら、ブスッとしながら「写真撮らないで」って言えるんですけど(会場笑い)それはできないんですよね。でもありがたいです。

 

 

敷居を下げるためにギャラリーがあったりとか、雑貨を売っていたりだとか、何でもいいわけじゃなくトータルな雰囲気が大切で、本屋である矜持は守りたいですし、おもちゃ屋になりたいわけではないですし、売れるんだったら宝石売ってもいいのか、っていう話ですよね。それは違うと。売れたら何でもいい訳ではなく、本屋であるという環境を保つ、両立させながら、利幅ですよね。2割の利幅を全体でならすと2割5分くらいになるよ、そうしたらアルバイト一人雇えるよ、という、そういう世界でやっております。

 

 

宍道:ありがとうございます。図書館人として、今の図書館は大きければいいという風潮があって、大きければ蔵書も多く、利用者の要求にも応えられるみたいな考え方があるんですが、僕は逆に(曽田文庫のような)こういう小さな場所でも、利用者の方に喜んでもらえることがあるんだなと感じています。

 

 

堀部:そうですね、うちは本当に規模や利便性では勝負にならないと思っています。WEBに無限に情報がある...無限ではないんですけど、家を出なくてもいいわけですから。

 

 

図書館便利ですよ、っていうことを売りにしたら、それはやっぱり「一番便利」ではない。合理性を求める人って、一円でも安く、一秒でも早く、みたいなことを求めるんですけど、そういう競争に僕は加わりたくないし、図書館などの場も、便利ですよ、こっちのが安いですよ、っていうのは、その業態が死滅していく考え方だと思うんですよね。

 

だから、不便で、偏っているけれど、ここに来ると、こういう風に手に取れるよとか、本がきっかけじゃなくても来てもらえることもあるというか。そういう意味で、他の業態に学ぶべきこともあるんじゃないかと思います。接客であったりとか、最上級のものは出してないけど、そこにいくと何か出会いがあったりだとか、居心地が良いであるとか。

 

 

 

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